大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和48年(ワ)2500号 判決 1973年5月19日

当事者参加人 北富士入会組合

右代表者組合長 渡辺孝基

右訴訟代理人弁護士 寺島勝洋

被参加人(原告) 富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合

右代表者組合長 堀内欣吾

右訴訟代理人弁護士 伊達秋雄

同 松本一郎

被参加人(被告) 国

右代表者法務大臣 田中伊三次

右指定代理人 叶和夫

<ほか六名>

主文

参加人の当事者参加申出を却下する。

当事者参加の申出によって生じた訴訟費用は、参加人の負担とする。

事実

一  参加人は、原告富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合(以下原告という。)と被告国(以下被告という。)との間の、当庁昭和四一年(ワ)第一〇四九六号土地立入禁止等請求事件につき、次のとおり当事者参加の申出をなした。

二  参加人は、請求の趣旨として、

「(一) 原告と参加人との間において、別紙第一物件目録記載の各土地につき、参加人が採草等をなすことを内容とする入会権を、同第二物件目録記載の各土地につき、参加人が部分権を内容とする入会権を有することを確認する。

(二) 被告は右各土地に自衛隊を立ち入らせて演習をさせてはならない。

(三) 被告は、参加人が右各土地に立ち入り、これを使用・収益することを妨害してはならない。

(四) 訴訟費用は原、被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として、次のとおり主張する。

三(一)  原告は、被告に対し別紙第一、第二物件目録記載の各土地(以下本件土地という。)につき立入禁止等の請求の訴を、昭和四一年一〇月三一日東京地方裁判所に提起し、右事件は昭和四一年(ワ)第一〇四九六号事件として同裁判所に係属中である。

(二)1  参加人は、いわゆる北富士演習場内に存する本件土地に後記のとおり入会権(部分権)をもつ入会団体で、定款の定めにより組合員たる資格を付与された者によって構成され、その運営および業務遂行のために組合定款および対外的な代表機関たる組合長を有するいわゆる権利能力なき社団であり、原告組合の構成団体の一つでもある。

2  別紙第一物件目録記載の各土地は登記簿上原告の、同第二物件目録記載の各土地は同じく訴外山梨県の各所有に属しているが、そのうち第一物件目録記載の各土地は、明治中頃、原告組合を構成している山梨県富士吉田市、同県南都留郡山中湖村および同郡忍野村の一市二ヶ村の前身である旧五ヶ村(福地村、瑞穂村、明見村、中野村、忍野村忍草区)の出資によりその共有地とされたものであり、第二物件目録記載の各土地はもと入会山であったが、明治初年の官民区分により官有地となり、その後御料地を経て県有地となったものである。参加人は、右各土地に古く江戸時代から入会を行なってきており、そのうち第一物件目録記載の各土地が右旧五ヶ村の共有地となった後は共有者の一員として入会利用を続けてきており、また第二物件目録記載の各土地が県有地となってからは旧来の入会権に基づいて部分林型態をとった入会利用を続けてきたものである。

(三)  参加人は、右のとおり本件土地に対して、従来、入会権を有し、これを行使してきたものであるが、被告は、入会権者たる参加人に対抗し得る正権限を有しないのに、いわゆる北富士演習場内に位置している本件土地に自衛隊を立ち入らせ、火砲の実弾射撃演習その他の戦闘訓練を行わしめ、もって、参加人の本件土地に対する入会権(部分権)に基づく使用・収益を妨害しているので、民事訴訟法第七一条前段により原、被告間の前記(一)の訴訟(以下本訴という。)に当事者参加し、本件土地の入会権に基づき原告および被告に対しそれぞれ請求の趣旨記載の判決を求める。

(四)  参加人が右参加をする理由は、次のとおりである。

1  原告は被告に対し本件土地について前記のとおり立入禁止等請求の訴を提起し、同訴訟を遂行してきたが、右訴訟は昭和四六年一〇月二六日口頭弁論を終結された。

ところで、原告組合は昭和四四年四月一日組合長が天野総一郎から渡辺孝二郎に交替してから、本訴の維持についてとみに熱意を失い、被告に利権提供を約束させたうえで、本訴を取下げようと画策してきたが、今回右取下げの意図は明白となった。すなわち、原告と被告国の防衛施設庁長官との間にかわされた昭和四五年七月四日付覚書によれば、北富士演習場が自衛隊に移管されれば、被告は原告に対して右演習場内の国有林約一五〇ヘクタール以上を払い下げることとし、これと引換えに原告は本訴を取下げるということである。

右覚書のとおり原告によって本訴の取下げが行なわれた場合、参加人は、右訴の取下げの結果を後記理由により承認せざるを得なくなるか、または得なくなる危険があり、ひいては参加人の本件土地に対する入会権(部分権)の行使を侵害させるおそれがあり、これは民事訴訟法第七一条前段所定の「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルベキ」場合に該当するものである。

2  本訴が参加人に及ぼす効果

原告は夙に左のとおり主張している。すなわち、原告組合の構成員は、形式上は前記一市二ヶ村であるが、右一市二ヶ村はその前身である旧一一ヶ村入会権者のためにその入会権(部分権)を信託的に管理するため原告組合を設立したものであり、したがって、原告組合の目的は右旧一一ヶ村入会権者が本件土地について有する入会権(部分権)を信託的に管理し、それに関する各種事務を処理することにあるというのである。

右原告の主張は必ずしも明確ではないが、信託関係を主張しているとみられ、さすれば、本訴の既判力は委託者たる参加人にも及ぶとの主張を含むものとみられる。参加人と原告との自衛隊使用問題に関する見解の相違に鑑み、かかる主張により、将来参加人に対し既判力が主張される可能性があり、かつ、それが認められれば、参加人に対し判決の結果が大きな影響を与えるのである。

理由

本件記録によれば、参加人は、原、被告間の本訴の口頭弁論終結後、その判決言渡前である昭和四八年四月三日民事訴訟法第七一条前段に基づき本件当事者参加の申出を当裁判所にしたことは明らかである。

そこで、本訴の口頭弁論終結後になされた当事者参加の申出の適否について考えるに、民事訴訟法第七一条前段によると、訴訟の結果により権利を害されるべきことを主張する第三者は当事者としてその訴訟に参加しうるものとされているが、これは第三者が他人間の訴訟に、その参加申出当時の訴訟状態において加入し、三者間に矛盾のない判決を求めることにより、従前の当事者による馴合的訴訟遂行を牽制しうることを認めたものであって、右の趣旨に照らすと、本訴の口頭弁論が終結した後においては、もはや参加の申出をすることはできないものと解すべきである。もしそのような参加申出が許されるとすれば裁判所は必ず口頭弁論を再開して三者間の訴訟につき審理を行なわなければならないこととなるが、かくては時機に遅れた参加申出のために訴訟の完結が遅延する結果となるのであって、そのような不当な結果を招いても弁論終結後の参加申出を許容しなければならないとするだけの理由はない(最高裁判所昭和三八年一〇月一日判決・裁判集六八号五頁参照)。

なお、右のように解しても、裁判所がその裁量により弁論を再開するときは参加の申出が適法となる余地があるが、本件の場合、従前の訴訟の経過等にかんがみると、弁論を再開すべきものとは認められない。

よって、本件参加の申出は不適法であって、その欠缺は補正することができないので、民事訴訟法第二〇二条に従いこれを却下することとし、訴訟費用の負担について同法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村岡二郎 裁判官 鈴木勝利 玉田勝也)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例